【毎日新聞:余録:引石散という仙薬がある…】
引石散という仙薬がある。それを石にかけて水で煮ると、すぐに石は芋のようになって食べられるという。いや、実際の話ではなく中国の道教の本「抱朴子(ほうぼくし)」(岩波文庫)にそうあるのだ。ある人は家人や弟子数十人と共に石を食べ十数年も元気に暮らしたという▲だからカセイソーダと古い段ボールを水で煮て肉まんの具にするくらいで驚いてはいけないのだろう。中国のテレビ局が段ボールで肉まんの具を増量していた北京の露店のとんでもない仙術を報じた。つい先日は、水道水をミネラルウオーターに変える中国の業者の仙術も伝えられた▲「抱朴子」には不老長寿の丹薬の作り方も書かれている。これら仙薬は水銀やヒ素化合物が調合された毒物ほど高級だったようだ。永遠の生命を求めた貴人はおかげで若死にし、とくに唐代は歴代皇帝のうち6人までも丹薬の中毒で死んだとされる▲こう聞けば、中国産原料を使ったかぜ薬で100人以上が亡くなったパナマの薬害や、米国でペット多数が死んだ中国産小麦のペットフード禍を思い出す方もいよう。中国では薬や食品に有害物質を用いる仙術も、いまだにまかり通っているようだ▲さすがに中国当局も長年ワイロをとって有害薬品を認可してきた高官を処刑したり、安全性に問題ある食品会社の禁輸措置をとるなどの対策を示し始めた。だが、地道に安全を図るより、危険な仙薬で手っ取り早い金もうけを求める商風土が一掃されぬことには国際的不安は消えない▲仙術の名誉のためにいえば、「抱朴子」は不潔な物を人に飲食させ、人を損なう者は寿命が奪われると書いている。人の悪事は家のかまどの神が天に報告するともいう。中国の悪徳業者は先人の書の読むべき場所を間違っている。
毎日新聞 2007年7月13日 東京朝刊
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